キャラ研発信

時代レポート キャラクターの今が見える時代

「母親としての自分」を表現し始めた女性たち(2003.10発表)

今回の調査で「絵本に関心がある」と回答した母親は全体の93%。そして、実に半数近く(48%)の母親が子供への絵本の読み聞かせを週4回以上行っていた。週1回以上まで入れると86%にもなる。また必要度でも、97%の母親が絵本を必要だと思っており、これは「お出かけ/家族旅行」(94%)よりも高く、「父親」(96%)と並ぶほど重要であることを示している。このうち、「かなり必要」という回答に絞ってみても、絵本は66%と「お出かけ/家族旅行」(54%)を上回り、玩具(39%)やテレビアニメ(10%)を大きく引き離している。母親の絵本への関心の高さがうかがえる。
 なぜ、こんなにも絵本が支持されているのだろうか?
 なぜ、今「絵本ブーム」なのだろうか?

今までの絵本は、子供のためのもの

 今の母親が子供の頃、多分、当時の大半の母親たちは、絵本は「子供のためのもの」と考えていた。絵本は、子供の好奇心を満たす楽しいものであり、与えておけば子供をとりあえず静かにしておけるというような「子供の娯楽」だった。
 そして、もちろん「子供の教育」的な意味合いも大きかっただろう。子供が文字や言葉に親しむ「知育」、ものの善悪や世の中のルールを学ぶ「道徳教育」、さらに、その色彩やテーマから豊かな心を形成していく「情操教育」のツールとして、絵本は読まれた。
 こうした母親の思いを受けて、子供たちは、与えられた絵本の美しい絵や色彩やストーリーに胸躍らせ、母親の体温や呼吸を感じながら、繰り出される物語に入り込んでいった。
 一昔前までは、絵本とはそんな「子供のためもの」であったような気がする。

いまや、絵本は、母親のものになった

 しかし、昨今の絵本ブームを見ていると、絵本に対する価値観が変化していることに気づく。今の母親は、どうやら子供だけのものとして絵本を購入しているのではなさそうだ。 絵本は、「母子のコミュニケーションツール」の意味を持ち始め、さらに、「母親にとってのコミュニケーションツール」という意味合いを濃くしつつある。調査結果でも、「絵本を読んであげる時に感じること(現在、子供に絵本の読み聞かせをしている人へ聴取)」の1位、「子どもが楽しんでいる」(76%)に続くのは、「子どもとの会話がとても楽しめる」(48%)、「子どものぬくもりが感じられる」(40%)、「子どもに安らぎを感じてもらっている」(39%)という、母子の交流に由来するものになっている。そこには、子供よりもむしろ母親のためのものというニュアンスが感じられる。「子どもから自分への愛情が確認できる」(12%)という回答も見逃せない。
 そして、さらに注目されるのは、絵本の良さを「母親自身の娯楽」(15%)とか「自分自身の気分転換」(24%)と回答する人たちである。生活の中で、ゆとり/センス/知性を感じられるものと回答する人たちも少なくない。この新しい絵本支持層は、母親自身がほっとしたり、ゆったりできたり、心安らいだり、優しい気持ちになれる、そんな新しい価値を絵本に認めている。
 明らかに「自分自身にとっての価値」を認める層が台頭してきていると言える。

 こうして、絵本は、「子供の娯楽」、「子供の教育」といった子供のためのものから、「親子の交流」、「自分の娯楽やセンス」といった母親のためのものへと、その価値を広げていった。

読み聞かせは、母子の繋がりが感じられる、短くても濃密な時間

 母親が絵本に安らぎやゆとりを求める、その社会背景には何があるのだろう?

 世の中は、不安でいっぱいである。近年、少年犯罪はますます低年齢化しており、いじめや不登校、学級崩壊など、子を持つ母親を怯えさせるような事件ばかりが目につく。先日の新聞記事によれば、「少年凶悪犯罪は10年前の倍に」達した。また、若い父親や母親による幼児虐待の記事も目につく。さまざまなストレスが親の心をゆがませ、信じられないような事件が起こっている。マスコミは親の愛情不足を理由にしがちだ。そして、事件が起こる度に、親は非難され、次第に大きなストレスとなっていく。
 こうした背景から、多くの母親たちは、子育てに対して漠然とした不安を抱え、荒んだ心の子供にしないために、そして母親自身の自信と穏やかな心を取り戻すために、あたたかい時間、ゆったりとした時間を今まで以上に欲しているのではないだろうか。

 本調査結果からも、9割近くの母親が何らかのストレスを感じていることがわかった。特に強いのは、「子どものために自分の行動や時間が制限されること」(52%)、「育児に対する不安や親としての責任に対するプレッシャー」(44%)だが、「子どもとの時間が十分に取れないこと」と答えている人も20%存在する。
 自由回答の中で、「忙しい中でも、読み聞かせのひとときを貴重で大切な時間と感じている」という、働く母親の回答が多く見られた。それは、子供と接する時間が少ないからこそ、この短い時間に子供とのより深い繋がりを求めているからだ。一方、専業主婦も、「読み聞かせは他ではなかなか得られない大切な時間」と感じている。それは、自分の時間が持てないからこそ、子供と一緒でも自分がゆったりした気分になれるものを求めているからである。

 母親は、絵本を読み聞かせるうちに、実はそれが自分の心を癒してくれていることに気付いた。絵本の読み聞かせによって、母も子も、お互いの体温や愛情や繋がりを感じることができ、短くても濃密な時間が過ごせる。それは、子供をぎゅっと抱きしめている感覚にも近く、誰にも邪魔されず二人だけの時間と空間を作れるすごく幸せなひとときなのだ。そして、実は自分が元気にもなっている。

 自信を失いかけた時でも、自分が母親であるということを確認し、喜びを得られるもの、それが絵本なのではないだろうか。

絵本は、母親が生活を自分らしく演出できる大切なツール

 変化の背景にあるのは、ストレスだけではないだろう。母親の子育て観やライフスタイルの変化も、当然その裏にある。
 今の母親は大概、昔の価値観に縛られたくはないし、子供が生まれたことで自分の生活を大きく変えたくないと思っている。できれば、おしゃれな母親でいたいし、自分の時間も作りたいと思っている。しかし、それは決して、家事や子育てを放棄して遊びに行きたいということではない。本調査結果の「日常生活における意識や行動」を見ても、「古くてもいいものは使う」(64%)の次にくるのは、「周りの人も幸せであってほしい」(57%)、「自分の生き方も大事にしている」(56%)、「自分のペースでやるほうだ」(52%)であり、自分のペースを大事にしながらも周囲への思いやりを忘れてはいない。つまり、彼女たちは、自分と同時に子供も満足させてくれるものを求めているのだ。

 絵本はその気持ちを満足させてくれるものである。

 例えば、子供がいると、リビングにものが溢れがちである。しかし、そこにあるものが自分にとって心地よいものであれば、おしゃれな生活も楽しめる。彼女たちにとって、絵本は、生活の中にあっても邪魔にならない上質なものであり、ゆとり、ファッションなのである。
 また、絵本は、テレビやビデオと違って自分のペースが作れるし、少ない文字数だからこそ奥深いものがある。そして、そういうものだからこそ、「絵本を読んであげるお母さん」は、「一緒にテレビを見てあげるお母さん」よりも、彼女たちの思う理想のお母さんになれる。おまけに、絵本は、自分自身が楽しむのにも、こむずかしくなく、内容もシンプルで絵も楽しめて、いつでも簡単にゆったり気分になれる。
 子供との時間がある母親でも、「絵本は母子二人が楽しめる数少ないものの一つ」と答えている人が多いのは、おもちゃやテレビでは、子供を遊ばせるだけで、案外、自分は楽しめていないからだ。母として子供が喜んでくれるのは嬉しいし、いろんなことを体験させるのは子供にとっても必要なことだと思っている。しかし、それだけでは十分な満足感は得られない。絵本とは「ちょっとハイソな母親」を演じることができるものという意識も、母親に、より高い満足感を与えているのではないだろうか。子供を喜ばせるものが絵本という(母親にとって)上質なものであれば、母親の嬉しさももっと上質なものになるのだ。

 部屋に絵本を飾る・・・開かなくてもそこにあるだけでなんだか嬉しい。絵本をいつも読んでいなくても、表紙を見ているだけで生活のゆとりが感じられる。子供と一緒に読んでいるそのシーンが想像される。絵本は、母親にとって、生活を自分らしく演出できる大切なツールにもなっている。

自分のために、自分の目で絵本を選ぶ母親たち

 自分を癒してくれる絵本を求め、絵本で自分らしさを演出する母親。
 では、彼女たちは、どんな絵本を選んでいるのだろうか。

 「絵本購入時に重視するポイント(この1年間に、子供のために絵本を購入した人に聴取)」は、2位の「価格の手頃さ」(59%)を除けば、「作品のテーマ」(63%)、「絵のタイプ」(57%)、「色使い」(52%)と、内容やビジュアル面での要素が上位に挙がっている。
 また、「積極的に読んであげたい絵本(現在、子供に絵本の読み聞かせをしている人へ聴取)」として、「子どもの創造力や感受性が豊かになる」(91%)、「子どもの好奇心が刺激される」(69%)という絵本の基本的な要素に加えて、「子どもと一緒に指差したり、めくったり、探したりが楽しめる」(61%)、「色がきれい」(60%)、「それを通して親子の会話が弾みそう」(51%)、「自分自身も楽しめる」(48%)と、母子の交流や自分の娯楽に繋がるものを選んでいる。

 今後この傾向はますます強くなり、より「子供にも自分にも楽しめるもの」「自分が気持ちよくいられるもの」「生活の潤いとなるもの」を求めるようになるだろう。
 自分も満足できるもの・・・つまり、それは絵本選択の決定権が母親に移ることを意味する。子供に選ばせたとしても、母親はますます自分の目でも絵本を選ぶようになるはずだ。「人から良いと勧められた絵本」や「昔からの名作絵本」を与えるだけではなく、母親自身が選んだ絵本を我が子に読み聞かせるという行為は、実に能動的であり、今後、母子の繋がりを強くし、子供たちの個性や感性を引き出していくことができるのではないだろうか。

 こういった傾向の顕著な母親たちを、我々は「自分の楽しみ派」と呼んでいる。

 今回の分析によって、絵本の支持層は「子供の娯楽派」「道徳・知育派」「親子の交流派」「自分の楽しみ派」の4クラスターに分類された。そして、分析結果から面白いことがわかった。
 それは、この4クラスターは、絵本について別々の価値を見出しているのではなく、新しい支持層ほど、今までの価値にプラスして新しい価値を認めているということだ。
1.「子供の娯楽派」は、絵本に対して、子供が喜べばそれで十分という、絵本の本来的な価値にしか気づいていない
2.「道徳・知育派」は、これに加えて教育的要素も認めるようになる
3.「親子の交流派」は、さらに、親が一方的に与える価値だけではなく、子供との言葉や感情のやりとりを重視する
4.「自分の楽しみ派」は、この3つに加えて、自分にとっての価値を感じている「自分の楽しみ派」は、絵本にすべての価値を認めている層だから、当然絵本に対して関心が高いし、情報を集めることに手間を惜しまない。「自分の楽しみ派」では、絵本を毎日読み聞かせる人が46%、1年間に子供に20冊以上絵本を買った人が15%もいる。
新しい母親たちが、今後の「子供」商品の消費リーダーとなる

 この、「自分の楽しみ派」に代表されるような新しい母親たちは、絵本に留まらず、何に対しても関心を高く持ち、情報を集めている。だからといって、流行に踊らされるのではなく、広く情報を集めた上で、自分の判断基準でものごとを選択しているのだ。

 彼女たちは、家族の為には身体に良いものを選び、周りの人たちの幸せを願い、地球環境にも配慮を怠らないスローライフを楽しむ新しい人たちである。優しい母親でもありたいし、自分の人生を楽しむその姿を見せることが、子供のため、家族のためになると考えている。そして、それをできる範囲(身の丈)で実践している。
 つまり、生き方についても、独り善がりではなく、かといって、かつての母親のように自分の生活を我慢し続けるつもりもない。彼女たちは、母親であることを楽しんでいる。母親になったことは「制約」ではなく、むしろ、「自分の生活を楽しく豊かにするチャンス」なのだ。そして、彼女たちは、「母親という楽しみ」を自分らしく生活に取り入れ、まわりのあらゆるところで「母親としての自分」を表現することに、喜びを見出し始めた。何事も肯定的に捉えることのできる、とても前向きでポジティブな明るい母親といえるのではないだろうか。

 彼女たちこそ、これからの絵本市場を引っ張るマーケットドライバー層といえるだろう。そして、同時に、自分の目で良いものを選びたいという、生活へのこだわりからも、これからの社会を切り開く意欲を持った注目すべき層だといえる。この人たちと絵本の関わり方を注視していくことは、「家族」や「母親」、「子供」といったテーマでものを捉える際にも、非常に重要になってくるだろう。そして、「子供」商品の消費の中心層になると考えられるこの母親層について、我々は、より深く知っていくべきであろう。

 母子のコミュニケーションツールになること
 まず母親がはまること
 母親が納得するような、おしゃれ感を持っていること

 これからの子供商品やサービスのポイントは、こんなところにあるのかもしれない。

(株)バンダイ キャラクター研究所     関 悦子