キャラ研発信

時代レポート キャラクターの今が見える時代

過去と現在をつなぐ夢の断片(2000.10発表)

まず容易に想像できる理由が、「孫」の存在である。 孫の喜ぶ顔が見られるなら・・・というのは、孫を持つ身なら誰もが思うことであり、この世代にとって、孫とのコミュニケーションをどうとっていくか、ということは重要な問題である。孫と一緒に遊ぶ、話題を共有する、そういう場面において、キャラクターは非常に有効である。孫が好きなキャラクターをおもちゃ売場に探しに行く祖父母たち、そんな光景が浮かぶ。実際に今回の調査でも、孫とのコミュニケーション手段としてキャラクターを捉えている層が半数以上を占めていた。

 しかし、それだけではない何かが、エルダー層とキャラクターとの間にはあることも、今回の調査から読み取れる。
 何よりも興味深いのは、好きなキャラクターのトップに「サザエさん」が挙げられていることである。これは明らかに、“孫のためのキャラクター”ではなく“自分にとってのキャラクター”である。この点について、文京女子大学の下仲教授は、その中に自分史を見出しているのではないか、と分析している。これまでの人生の積み重ねを無意識のうちにも感じ、そのことが今の自分に安心を与えてくれているのだ。しかしそれは、「あの頃は良かった」で終わってしまう単なるノスタルジアではない。今まで築いてきた家庭や生活が大きく変わってしまう50代、60代。新しいものへ向かっていく時の不安な気持ちに対して、これだけ頑張ってきたんだから大丈夫、と背中をそっと押してくれるのがキャラクターなのだと思う。
 世の中が凄いスピードで変化し、新しいものが次々と生み出され、今までのものが一瞬にして風化してしまう現代にいると、これまで生きてきた時間までもが無になってしまうような気になってしまう。そんな時、自分たちが若かった頃から居るキャラクターたちは、過去から現在までの「時間」を実感させてくれる貴重な存在になっていく。キャラクターそのものの可愛らしさや面白さということ以上に、自分に対する愛おしさがあるから、キャラクターが側にあることで明るい気分になったり、生活が楽しくなったりするのだと思う。それは、自分の生き様があり、歴史があるこの年代だからこそのキャラクターとの関係なのではないだろうか。

 50〜60代のエルダー層を語る時にどうしても外せない視点が、団塊世代の存在である。人口の多さというだけでなく、育ってきた時代背景も価値観も、それまでの世代とは大きく変わっている。キャラクターとの関係で言えば、前述のサザエさんや鉄腕アトム、ダッコちゃんなど、自分たちのキャラクターがあることが、大きな違いである。今回の調査でも、50代前半とそれ以上では、キャラクターに対する親和性に大きな差があった。50代女性では生活に欠かせないものという認識も高い。彼らにとってキャラクターは、孫のためではなく自分のために存在する。この「自分のため」という視点が、個性重視の団塊世代の特徴である。彼らは、自分の欲求をストレートに主張する、初めての高齢者になっていく。

 では、健康で、お金も時間も十分にある彼らは、「自分のために」何をしたいのか。そのキーワードは、「過去」にあるのではないかと思う。若い頃の自分というのは、この世代にとって一つの夢のようなものなのではないだろうか。当時の気持ちはさておき、今振り返ってみれば、ほとんどの人が幸せな気持ちになれると思う。今の自分の原点であり、そこから未来が生まれてくる時代。若者が将来の夢を見るように、エルダーたちは、過去に夢を見る。楽しいこと、面白いことの出発点はそこにあったのだから。もう一度青春を、と言ってしまうと古くさいドラマのようで気恥ずかしいが、純粋に「自分のために」生きようと思う時、幸せの原点に立ち戻っていくのは、とてもよく分かる。
 エルダーのニーズについてもうひとつ。最近、若者に向けた商品が、意外にも年配の世代にうける、という事例をよくみかける。エルダーだって、もっともっと楽しみたいのだ。彼らが求める楽しいことを、私たちはまだ十分に提供できていない。既に長く生きてきた人たちだからと、彼らにも明るい未来があることをつい忘れてしまっている気がする。彼らがキャラクターと関わる時、過去を感じながらも、視線の先には現在と未来があった。生きてきた時間をキャラクターに重ね合わせて安らぎたいのは、次に踏み出していくべき未来を見ているからだ。明るい未来に、どんな楽しいことが待っているのか、そんなワクワクは若者たちもエルダーも変わらない。ただ、違うのは、エルダーが未来を想像する原点は過去にある、ということだ。彼らの生きてきた時代に思いを馳せつつ、純粋に「楽しいことを考えよう」というところから出てくるアイデアが、今必要なのではないだろうか。

 エルダー層の意識、彼らが求めるものについて、今回の調査で明らかになったことはほんの一部でしかない。上で述べたようなことも、仮説の段階でしかない。しかし、エルダーとキャラクターという点においては、定年というライフイベントをきっかけに新しい一歩を踏み出そうとする彼らに対して、自分の歴史の重さがしっかりと感じられ、そこに次の夢を見られる、そういうものを提供していかなくてはならないことは確実だろう。そして、さらに我々は何をすべきなのか。課題はまだまだ多い。

(株)バンダイ キャラクター研究所     土居 由希子